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新時代の建設業経営 第8回-10年ぶりの大改正!新経審の影響はどこに出るのか?-

公共工事の競争参加資格の主要な条件として義務付けられている経営事項審査が、平成11年以来10年ぶりに大改正されることが内定した。今秋の中建審総会で正式決定後、平成20年度審査分から「新経審」を適用することになる。新聞報道などでも、新経審の概要は紹介されているが、具体的にどのような影響が発生するのだろうか?現時点で公表されている資料から、その影響について分析を行った。

評価される項目の内容、得点幅とウェイトを見直し

企業評価や格付けに用いられる経審の得点は、総合評定値(P評点)といわれる。P評点は、経営規模(X1、X2)、経営状況(Y)、技術力(Z)、その他の審査項目(W)という観点から、X1評点,X2評点、Y評点、Z評点、W評点という5つの評点を加算することで算出している。今回の改正では5つの評点の計算方法と評点幅、そして加算する際の重み(ウェイト)が、大幅に変更された(変更内容の全体像は、表にまとめて表示した)。改正された新経審の影響について検討してみよう。

平成20年度経審改正 新旧比較表
評点 現行制度 改正案 備考
ウェイト 最大値 最小値 ウェイト 最大値 最小値
X1
評点
35% 2,616 580 25% 2,200 400 X1評点の完成工事高の評価上限を現行の2000億円から1000億円に引き下げる。完成工事高が5億円以下の領域で差がつくように評価値を改正する。
X2
評点
10% 954 118 15% 2,200 400 自己資本比率と完工高職員数を廃止、新たに自己資本額(0~3000億円)とEBITDA額(0~300億円)を点数化する。
Y
評点
20% 1,430 0 20% 1,400 0 固定資産保有と有利子負債の過度な影響を軽減するため、従来の4要素12指標から、3指標以外を廃止、新たに4要素8指標に簡素化する。(新たな4要素の詳細は別表)
Z
評点
20% 2,402 590 25% 2,400 400 技術者数の点数(現行テーブルを参考に線形式化)に加えて、新たに元請完工高(0~1000億円)を点数化、4:1の比率で加重する。技術者は1人2業種までに登録制限され、新たに一定の要件を満たす技能者に3点、監理技術者に1点加点する。
W
評点
15% 987 0 15% 1,800 0 評点の上限を引き上げ、加点減点の幅を拡大。賃金不払や工事の安全成績など自己申告項目を廃止する一方、新たに法令遵守の状況、監査の受審状況(会計監査設置会社では、研究開発費の額も評価)など、企業の信頼性に関する評点を追加する。
P
評定値
100% 1,925 333 100% 2,030 260  

X1評点

まず、企業規模を評価するといわれている経営規模(X1、X2)のウェイトと評点幅は次のように変化する。業種別の完成工事高を評価するX1評点は、完成工事高が大きいほど高得点となる。従来は2,000億円以上の得点が一定(2,626点)だったが、改正後は1,000億円以上の得点が一定(2,200点)になる。また、5億円以下の得点幅が現在の322点から502点に拡大する。この改正により、完成工事高1,000億円以上の業種については完工高による格差がつかなくなり、経営状況やその他の評価項目で差がつくようになる。
現実には、この点で影響を受ける完成工事高が1,000億円以上の企業は、全国で90社程しか存在しない。その一方で、経審を受審する企業の9割近くを占める完工高が5億円未満の企業では、完成工事高によるX1評点の差が拡大する見通しだ。
完成工事高が5億円以上、1,000億円未満の業種のX1評点については、現行と変わらない。そして、X1評点のウェイトが35%から25%に削減されるため総合評定値Pに対する影響は、従来に比べて約3割低下する。

X2評点

従来のX2評点は、平均完成工事高に対する自己資本比率(X21)と建設業従事職員数(X22)を評価しており、X21は大企業が優位、X22は中小企業が優位だった(いずれも平均完成工事高が1,200億円を超える場合は1,200億円と見なすが、このケースに該当する企業は、全国でも70~80 社しか存在しない)。特にX22は、平均完成工事高あたりの雇用数の多さを評価するため、中小企業に有利だったが、一方で生産性の向上を阻害するという指摘があり、今回改正で廃止される。改正後のX2評点は、自己資本額(上限3,000億円、下限0円として点数化)とEBITDA(利払前・税引前・償却前利益=営業利益+減価償却費、上限300億円、下限0円として点数化)という「絶対額」を評価するため、規模が大きい企業ほど優位に立つと予想される。
償却前利益を評価するため、償却資産の設備投資を積極的に実施して、利益を生み出す企業が有利になる。企業経営をフロー(EBITDA)とストック(自己資本額)の観点から、バランスよく評価するためと説明されている。
また今般の改正でX2評点は、ウェイトが10%から15%に増加、得点幅が836点から1,800点に拡大されるため、P評点に換算して83.6点から270点へと影響が大幅に拡大する。従来は、企業規模との相関が低く、得点幅も少なかったX2評点だが、今回の改正により大きな影響を持つようになった。

X2評点 新旧比較表
X2
評点
現行制度 改正案 備考
X21 自己資本 / 完成工事高 自己資本額 自己資本額(0~3000億円)とEBITDA(0~300億円)を、各々点数化して加算したものを企業規模数値とし、これを評点テーブルに当てはめて、X2評点を求める。
X22 建設業従事職員数 / 完成工事高 EBITDA(償却前営業利益)

従来のY評点

経営状況を分析するY評点も、評価項目が大幅に変更される。バブル経済崩壊後の金融危機の最中の平成11年に改正された従来のY評点は、不良資産の保有や有利子負債の残高、期末資金の枯渇に対して、非常に厳しい評価を下していた。
従来のY評点は、収益性・流動性・安定性・健全性の4要素を12指標から算出する。収益性では、売上高営業利益率・総資本経常利益率・キャッシュフロー対売上高という3つに区分集計された利益から算出されているが、営業利益率の影響が大きい。流動性では、必要運転資金月商倍率・立替工事高比率・受取勘定月商倍率という3つの指標を用いて算出しているが、この3指標とも売上高に対する資金の未回収額が多いことを、マイナス評価している。3月期に完成工事高が集中する役所発注の工事が多い企業は、3月決算では未収入金が増加するため、流動性指標が悪化する。3月決算を未収入金が減少する5月~6月に決算期変更した企業が多くあった理由でもある。
安定性は、実際は負債性といってもよい内容で、売上高に対する有利子負債や純支払利息の多さをマイナス評価し、自己資本比率の高さをプラス評価している。特に支払利息額が多いことに厳しい評価を与えている。健全性は、自己資本対固定資産比率・長期固定適合比率・付加価値対固定資産比率という、いずれも分母に固定資産をもつ指標を用いて算出している。自己資本対固定資産比率は固定比率の逆数、長期固定適合比率は固定長期適合率の逆数で、いずれも固定資産の調達資金源の健全性(安全性)を評価している。唯一、付加価値対固定資産比率だけが、固定資産が付加価値を生み出す度合いを評価しているが、実際にY 評点への影響はそれほど大きくない。固定資産を保有することが、評価を低下させることでは一致する。また、8割強の企業が平均点を下回るという特異な分布する指標である。
従来のY評点については、かねてより懸念される点が3つ指摘されてきた。その1点目は、健全性に係わる指摘で、本業で必要な建設機械などの固定資産を保有しても評価が下がり、反対に技術者も機械も保有しないペーパーカンパニーが高評価を受けるという指摘である。2点目は、安定性に係わる指摘で、有利子負債がマイナス評価をされることで、新分野進出など新規投資が阻害されるという指摘である。また、有利子負債は信用の証である、という意見まであるが、さすがにこの意見に対しては、有利子負債が発生した原因が何であるか、チェックすべきだろう。3点目は、流動性に関する指摘である。公共工事が主体とする企業では、特に3月決算の場合、未収入金を大量に保有することになるが、これが流動性の評価を低下させる。公共工事の未収入金は、回収リスクがないのだから除外すべきだ、という意見である。筆者はかねて、決算時期と流動性評点の関係について問題を指摘しきてきた。経審受審企業の決算月と月別の流動性平均点数の関係を、グラフに示した。3月決算企業と5月・12月決算企業の間で、流動性評点に大きな差があるが、決算月によって経営状況が大きな影響を受けることが、流動性に係る問本質だと考える。

Y評点 現行制度の指標
現行制度の指標 各指標の算出式 上限値 下限値
売上高営業利益率(%) 営業利益 / 売上高 x 100 7.400% -9.500%
総資本経常利益率(%) 経常利益 / 総資本(2期平均) x 100 15.800% -13.100%
キャッシュ・フロー対売上高比率(%) (当期利益±法人税等調整額+当期減価償却実施額+引当金増減額-株主配当金-役員賞与) / 売上高 x 100 6.700% -7.500%
(収益性点数) 0.10403 x X1 + 0.03219 x X2 + 0.06474 x X3 - 0.52301 1.189 -2.419
必要運転資金月商倍率(月) (受取手形+完成工事未収入金+売掛金+未成工事支出金-支払手形-工事未払金-買掛金-未成工事受入金) / (売上高 / 12) -1.600月 3.400月
立替工事高比率(%) (受取手形+完成工事未収入金+売掛金+未成工事支出金-未成工事受入金) / (売上高+未成工事支出金) x 100 0.000% 37.900%
受取勘定月商倍率(月) (受取手形+完成工事未収入金+売掛金) / (売上高 / 12) 0.000月 4.300月
(流動性点数) 0.13201 x X4 + 0.06263 x X5 + 0.16302 x X6 - 1.21835 -1.430 2.305
自己資本比率(%) 自己資本 / 総資本 x 100 68.400% -23.500%
有利子負債月商倍率(月) (短期借入金+コマーシャル・ペーパー+長期借入金+社債+新株予約権付社債+受取手形割引高) / (売上高 / 12) 0.000月 3.100%
順支払利息比率(%) (支払利息-受取利息配当金) / 売上高 x 100 0.000% 3.100%
(安定性点数) 0.00969 x X7 - 0.16104 x X8 - 0.36901 x X9 + 0.94023 1.097 -2.677
自己資本対固定資産比率(%) 自己資本 / 固定資産 x 100 529.300% -76.500%
長期固定適合比率(%) (自己資本+固定負債) / 固定資産 x 100 754.500% 26.900%
付加価値対固定資産比率(%) (売上高-(材料費+労務費の内訳の労務外注費+外注費)) / 固定資産(2期平均) x 100 1430.600% 61.500%
(健全性点数) 0.00107 x X10 + 0.00229 x X11 + 0.00071 x X12 - 0.94023 2.370 -0.917
Y点 215.3 x A + 720 1430 0

決算月別の流動性評点
決算月別の流動性評点

新しいY評点

新経審の経営状況分析評点(Y)は、ウェイト20%と評点幅(0点~1,400点、従来は1,430点)の変化は少ないが、Y評点そのものを算出する指標が抜本的に見直された。新たに負債抵抗力指標として純支払利息比率と負債回転期間、収益性・効率性指標として総資本売上総利益率と売上高経常利益率、財務健全性指標として自己資本対固定資産比率と自己資本比率、絶対的力量指標として営業キャッシュフロー(絶対値)と利益剰余金(絶対値)という、8 指標が採用されている。この新指標を選定した理由として、従来のY評点は小規模・零細企業の評点分布幅が大きく、企業実態に比べて過大評価されている傾向があること。固定資産が少ない企業が高評価を受けやすく、ペーパーカンパニーが高評価を受ける傾向があること。利益の区分集計法や流動・固定の計上区分など、企業間の会計基準の差によるY評点への影響が極小になること、などの要件を満足する指標と計算方法であるとされている。また新しいY評点は、倒産判別率が高いと言われている。実際に、従来から踏襲された指標は3つにとどまり、新たに5指標が採用された。従来から踏襲された指標は、(1)純支払利息比率、(2)自己資本対固定資産比率、(3)自己資本比率の3つである。純支払利息比率は、従来から最もY評点への感度が高い指標であったが、上限値・下限値が従来の3.1~0から新経審で5.1~▲0.3に拡大され、Y評点への寄与度は、従来の3倍となる29.9%という大きな影響を与える。支払利息は、企業の身近にあって企業経営を監視している金融機関によるシビアな企業評価結果であって、経営状況を表す代表的指標になった。自己資本対固定資産比率は、固定資産が大きいとマイナス評価される指標だが、上限値が529.3から350へと圧縮され、Y評点への寄与度も従来の3分の1以下になって、その影響は減少する。自己資本比率は企業財政の安全性を示す最も基本的な指標だが、新経審では財政状況を監視するため、下限値が▲23.5から▲68.6へ大幅に拡大された。その寄与度は 1.8倍近くに拡大する。
新たに採用された指標は5つある。(1)負債回転期間は、従来の有利子負債月商倍率の有利子を流動負債+固定負債に置き換えたものである。借入金以外の負債も、それは資産調達の源泉であり、負債はいずれ返済ないしは支払いを要する。その負債の規模を月商で計って評価する。支払が遅く未払額が多い企業は、借入金と同じ扱いで評価される。また未完成工事受入金も同じ扱いになるが、工事進行基準で収益に計上する企業は、有利になるものと考えられる。
(2)総資本売上総利益率と(3)売上高経常利益率は、収益性を代表して計る指標である。従来の経審の収益性と利益の集計区分が異なるものの、新経審の収益性・効率性の寄与度も、従来の8割を超える水準となる。本社経費の削減よりも、現場の粗利が大きいことが、より高い評価を得る。また、総資産が少ないペーパーカンパニー排除のため、2期平均の総資産が3,000万円以下の場合は、これを3,000万円と読み替えて計算する。 (4)営業キャッシュフロー(絶対額)と(5)利益剰余金(絶対額)は、大企業と中小零細企業をクラス分けして評価する仕組みとして機能する。また企業の絶対的な収益力を、フローで示すのが(4)営業キャッシュフロー(絶対額)であり、ストックで示すのが(5)利益譲与金(絶対額)である。また営業キャッシュフローは、X2評点のEBITDA(営業利益+減価償却費)と傾向が似ており、建設重機など償却資産を保有して収益力を高め、その上で減価償却を実施する企業が高い評価を受けることを特筆しておく。

Y評点 新旧比較表
Y
評点
現行制度 改正案 備考
  (収益性) (負債抵抗力)  
X1/X1 売上高営業利益率(%) 純支払利息比率(%) (支払利息-受取利息配当金)/売上高、寄与率29.2%、上下限5.1~-0.3
X2/X2 総資本経常利益率(%) 負債回転期間(月) (流動負債+固定負債)/売上高/12、寄与率11.4%、上下限18~0.9
X3/ キャッシュフロー対売上高比率(%)    
  (流動性) (収益性・効率性)  
X4/X3 必要運転資金月商倍率(月) 総資本売上総利益率(%) 売上総利益/総資本、寄与率21.4%、上下限63.5~0.9
X5/X4 立替工事高比率(%) 売上高経常利益率(%) 経常利益/売上高、寄与率5.7%、上下限5.1~-8.5
X6/ 受取勘定月商倍率(月)    
  (安定性) (財務健全性)  
X7/X5 自己資本比率(%) 自己資本対固定資産比率(%) 自己資本/固定資産、寄与率6.8%、上下限350~-76.5
X8/X6 有利子負債月商倍率(月) 自己資本比率(%) 自己資本/総資本、寄与率6.8%、上下限68.5~-68.6
X9 純支払利息比率(%)    
  (健全性) (絶対的力量)  
X10/X7 自己資本対固定資産比率(%) 営業キャッシュフロー(億円) 営業CF ※2期平均、寄与率5.7%、上下限15~-10
X11/X8 長期固定適合比率(%) 利益剰余金 利益剰余金、寄与率4.4%、上下限100~-3
X12 付加価値対固定資産比率(%)    

※営業キャッシュ・フロー=当期純利益+未払法人税等増減額(当期-前期)+法人税等調整額-当期原価償却実施額+受取勘定増減額(当期-前期)-棚卸資産増減額(当期-前期)+支払勘定・未払い金未払費用・預り金増減額(当期-前期)+未成工事受入金増減額(当期-前期)-引当金増減額(当期-前期)- 株主配当金-役員賞与

まとめ

デフレ基調の最近の10年間、資産圧縮など慎重な経営姿勢が評価された従来の経審から、より積極的な経営姿勢が求められる新経審。企業規模の単純比較ではなく、利益の質を問う内容の新経審だろう。今号に記載できなかった技術力(Z)、社会性その他の審査項目(W)も、評価内容と評点幅、ウェイトが大きく変化した。企業集団の経審の認定要件も、考え方が大きく変わる。次回は、残るW評点・Z評点の解説と新経審の評点シミュレーションを試みる。

W評点 新旧比較表
W評点 現行制度 改正案 備考
W1/W1 労働福祉の状況 30 労働福祉の状況 45  
  雇用保険未加入 -15 雇用保険未加入 -30 減点幅を拡大
健康保険・厚生年金の未加入 -15 健康保険・厚生年金の未加入 -30 減点幅を拡大
賃金不払件数 -15     自己申告項目は廃止
建退共加入への加入 7.5 建退共加入への加入 15 加点幅を拡大
退職一時金制度の導入 7.5 退職一時金もしくは企業年金制度の導入 15 加点幅を拡大
企業年金制度の導入 7.5
法定外労災制度への加入 7.5 法定外労災制度への加入 15 加点幅を拡大
W2/ 工事の安全成績 30     自己申告項目は廃止
W3/W2 建設業の営業年数 30 建設業の営業年数 60 加点幅を拡大、上下限(5~35年)は現行制度通り
W4/W5 公認会計士等数 10 建設業の経理の状況 30 会計監査人の設置:20点、会計参与の設置:10点、社内の経理実務責任者(加点対象有資格者)のチェックリストに基づく自主監査:2点
      監査の受審状況 20
    公認会計士等数 10 現行通り
W5/W3 防災協定締結の有無 3 防災協定締結の有無 15 加点幅を拡大
/W6     研究開発の状況 25 会計監査人設置会社に限定して加点対象とする
合計   103   175 監査の受審状況・研究開発の状況を除いた場合、最高130点